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【01 農産アンテナ】
2008-10-21
『農業経営者』セミナー 「生産調整の廃止と直接支払いの導入が日本農業を再生する」
去る10月10日に開催された『農業経営者』主催の定例セミナーに参加しました。講師は、農水省ガット室長、農林水産省農村振興局次長を歴任された元農水官僚で経済産業研究所上席研究員の山下一仁氏。講演の大きなテーマは「グローバル化と人口減少時代の農政改革」。具体的な演題は「生産調整の廃止と直接支払いの導入が日本農業を再生する」です。
主催者によれば、このセミナーの主張は、「農水省OBが、あるべき農政を喝破!まず生産調整の撤廃だ。コメの生産量を増やし、米価を下げてコメ市場の拡大を図る。生産増とコスト減を実現すれば、コメ粉、飼料米、工業原料など国産米の需要は拡大できる。次に、主業農家を育成する構造改革。一定規模以上の農家には面積に応じた直接支払いを交付して、農地を副業的農家から主業農家に集める!」です。
http://www.farm-biz.co.jp/2007/09/01-070015.php
【背景説明】
農業経済学者であり、農業政策の立案担当者でもあった山下一仁氏の講演は、EUやアメリカなど他国の政策を参考に、数式やグラフも用いてその有効性を説明する場面もあり、かなり専門的な内容でした。講演では、最初に“専業農家が増えないことや高齢化の進行”により、農業の衰退に歯止めがかからない日本の状況(65歳以上の農業者割合が6割に、耕作放棄地は東京都の2倍弱になった)を概観し、WTOやFTA交渉において例外品目である米などの“関税引き下げを主張する”ことで消費量の5%に相当する“大幅なミニマム・アクセス米の輸入が要求”されて、食料自給率がさらに低下するという仕組みの説明。さらに“少子高齢化の影響で米の消費量が過去40年間で半減”したが、今後は人口減少の影響でさらに減少するであろうこと。この状況に合わせるなら、さらなる生産調整(減反)が必要になり日本の農業は大幅に縮小せざるを得ない状況になるであろうことなどを、講演テーマの背景として説明されました。
【EUなどの成功例】
そして、本題である「生産調整の廃止と直接支払いの導入」に関しては、日本では米価を上げたことで米が過剰になり、40年近くも生産調整(減反:水田面積の4割)を実施してきたことで、食料自給率が1960年の79%から2007年の40%に半減したこと。これは関税依存型で消費者負担型の農政であること。それに対してEUやアメリカでは、消費者負担による高関税(高価格)による農業保護政策を1986年から2006年にかけて財政による直接支払い制度(米価を下げた分の農家の所得補償制度)に転換したことで、その負担率は37%→17%(アメリカ)、86%→45%(EU)と半減に成功したことを紹介。その結果、国際相場よりも安い値段になったお米は輸出競争力を持ち、ミニマム・アクセス米を輸入する必要もなくなり、これまで家畜用飼料として輸入していた穀物を国内在庫の米に切り替えることでその在庫も減り、財政的な負担も大きく減らせたということでした。
【日本での展開】
このことから、山下氏は日本においても米の生産調整(減反)や価格支持政策を段階的に廃止して、一定規模以上の農家に直接支払い制度を導入することを提案しています(零細・兼業農家は農地を貸し出すことで地代収入を獲得)。そのことが、規模拡大による生産効率の向上とコスト・ダウンにつながり、米の価格が下がります。すると国内需要と輸出による国産農産物の需要が拡大して、耕作放棄問題が解消、食料安全保障や(地下水の涵養など)多面的機能の基礎である水田の保全と確保が可能になるといいます。また、現在生産調整にかけている金額と同じ金額で米の直接支払い用の費用が賄えることから、米の価格低下により4兆円あった農業保護の消費者負担は消滅し、しかも事故米の原因ともなったWTO・FTAによるミニマム・アクセス米を輸入しなくて済むようになり、在庫米の保管料もかからないので財政負担を大きく減らすことにつながるそうです。また、農業に専念できる専業農家が増えることで、結果的に環境保全型農業が増えることにもつながるともいうのが、講演の大まかな内容でした。
【講演を聞いて】
このセミナーが行われたのが、ちょうど「事故米」騒動が起きた直後だったというのは、日本人の主食であるお米の生産に深く関わる「減反と直接支払い」というテーマを考えるにはすごくタイムリーなタイミングだったと思いました。というのも、お米に高い関税をかけていることの代償として受け入れざるを得なくなり、積み上がったミニマム・アクセス米(1994年~)の在庫をどうにか捌くために農水省が輸入されたお米を関連業者に販売していたことが、この事故米騒ぎの原因のひとつだったからです。
当たり前のように自分の頭にも刷り込まれていた「高齢化による担い手不足などの影響で国際競争力のない、この先夢も希望もない日本の農業を守るためには、ひたすら高い関税をかけて米の輸入を防ぐしかない。」という考えを、①グローバル化した金融と経済の影響による投機マネーの流入などで“異常に価格が高騰した世界の原油と穀物市場”の問題、②経済成長の著しい中国やブラジルなど新興国の消費増大などにより始まったと言われる“国家間による食料争奪戦”、③“40%を切ってさらに下がると言われている日本の食料自給率”をベースに考え直してみると、山下氏の提唱する「生産調整の廃止と直接支払いの導入が日本農業を再生する」という主張は、意外と論理的で説得力があり、自立した明るい農業の未来につながる考えであるように感じました。
【山下一仁氏の略歴】
東京大学卒業、同博士(農学)。1977年農林省入省。ミシガン大学大学院を経て、02年国際部参事官、OECD農業委員会副議長を最後に退官。03年経済産業研究所上席研究員に着任、現在に至る。主な研究分野は、食料・農業政策、中山間地域問題、WTO農業交渉、貿易と環境、貿易と食品の安全性等。
http://www.rieti.go.jp/users/yamashita-kazuhito/index.html
Radixの会事務局
郡山昌也
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