農産畜産Blog

【02 畜産会員情報】

2007-12-25

生産者紹介・黒富士農場

自然に還る畜産......黒富士農場

農場主の向山茂徳さんは1984年、塩山市から茅ケ岳山腹1000mの地に現在の黒富士農場を開設、1991年平飼い養鶏を開始した。農場中央を流れる沢の左右の斜面上、森にうもれ佇む鶏小屋。沢水は変わらずおいしい。この土地で向山さんが進めている新たな取り組みを紹介する。内容は10月29日取材。12月25日発行のラディックスニュースレター52号と重複するが、WEBは文字数に余裕があるので、元原稿にて再録する......

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●水をデザインする
 畜産は生産の工程より静脈側のシステムを見る。すなわちその構造を見るのに、土と水がどう循環しているかを見るのがよい。この意味で向山さんの設計思想は、すべて農場を流れる"おいしい"沢の水にあると言える。

 森の営みが生命活動に起因する汚染物質をどのように浄化するか。

 向山さんはそのふるまいを科学的にシステムに取り込むBMW技術にめぐり合い、土着の微生物と、自然が本来備えるミネラルの機能を活用し、嫌気発酵主体のバイオリアクターを介して畜ふんを活性堆肥に、汚水を活性水に転換し循環させる技術を農場の設計の柱に据えた。

 日本の畜産において飼料は輸入が前提だ。そして静脈である排泄の問題は別扱いで、コスト追及の面から長く目隠しされてきた結果が様々な環境汚染だ。向山さんは開設当初から、鶏糞発酵堆肥を域内で供給する仲間づくりを進め、15年前には山梨県内の果樹農家とのネットワークを結び、"土"での農畜連携を遂げている。

 鶏は他畜種に比べ消化器官が短く排泄物も未分解で、タンパクやカルシウムなどが多い。ふつうはこれを乾燥させまたは発行させて肥料として販売するが、黒富士農場ではこれに馬糞や茶がらを混合し堆肥化させる。排泄物であるからわざわざ他から排泄物を持ち込むという発想をする養鶏家は少ないが、賢い耕種農家の立場からすると、それでは困るという。土を再生させたいのだ。

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 良い堆肥は2つの理由で土を再生させる。ひとつは土壌の団粒構造の母体として土を蘇らせること。太陽と水そして土の栄養を作物に吸収させ成立する農業は、地力を収奪する定めにあるが、補給すべきは栄養分だけではなく、植物の根が活発に呼吸し活動できる状態を維持させることが重要だ。

 もうひとつは良い微生物を供給すること。理想的には土着の微生物が活性化して、畑の微生物叢をバランスさせることだが、このとき前述のBMW技術が結びつく。浄化目的のBMW技術は、土着の微生物を有効に利用することが家畜の健康にも関与するから、とうぜん排泄物たる畜糞にもなんらかの良い影響があるはずだ。もともと消化器官の短い鶏ならなおさらだろう。

 土着の微生物が鶏の消化管を経て糞となり、堆肥化の過程でより活性化し、土を蘇らせるとすれば、畜産という産業は、社会に新たな価値を創出することになる。黒富士農場が、鶏糞の堆肥化を進めた理由はここにある。

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 その仲間が"やまなし自然塾"であり、技術的な背景をなす山梨自然学研究所へと進化していった。開設から10年に及ぶ大仕事だった訳だが、この静脈側の基礎的な設計思想が、森に埋もれた農場の沢水を生かし続け、後世に残るだろう黒富士の事業の骨格をなすことになった。

 水のデザイン。ローインパクトを旨としながら、事業として高い生産性を保つ黒富士の生産システムは、堆肥や水で域内ネットワークを結ぶことで一旦の完成を見た。

●日本の畜産、国内と海外

 次に向山さんが目指すのは、飼料のネットワークと、その有効活用のための技術の完成だ。
 以前の日本農業が小農有畜複合であり、田畑と、家畜小屋には数十羽の鶏、数頭の豚や牛が暮らす姿。餌はワラや残飯などの副産物が養うことで循環していた。原油高、穀物相場の急激な不安定化で注目されている飼料自給だが、向山さんはこの取り組みに既に5年の時を費やしてきた。

 昨今叫ばれる飼料自給は、輸入飼料価格の高騰の反動が、旧来の"自給"という見えそうで見えない理念と錯綜し、整理されないまま推移しているように感じたりもするが、向山さんの見ている世界は、むしろネットワークなのだと思う。堆肥の農畜連携で築き上げた"やまなし自然塾"の仲間作りと合い通じる部分でもある。そこからは現在、海外と地域、その双方の連携の姿が見えてくる。

「カナダに今、遺伝子組み換え穀物を導入しないで頑張っている生産者のネットワークがある。GMO問題は日本からエキセントリックに見てると見えないことがある。アメリカなりカナダなりオーストラリアなり、先進国の農業の実情を知った上で、まだできることはあると思う」

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 向山さんは現在、カナダのとある農業組合との連携を模索している。フィリピンとの取り組みも含め、畜産において海外との連携を無視することは、ある意味時期尚早であるとも言える。畜産という役割が、社会経済的に見てどのようなな存在として生かされていくのか。すなわち日本の畜産では、土地に根ざした自給から発想し消費者の合意を得る方向と、中間搾取の構造をめくりとって、実需者双方のメリットが継続し得る海外生産者との関係を取り結ぶ方向の中間に位置しているようにも見えるのである。まだ日本の畜産が、普遍的な存在として見えていない時代なのだ。

 日本の畜産は変動相場制に移行した70年代以降、急速に進んだ円高によって小農有畜複合型、都市型の畜産は崩壊し、特に小家畜である養鶏業において、安い輸入穀物飼料を利用する大規模の企業畜産が席巻した。90年代は肉の輸入自由化が大幅に進み、肉牛などの大家畜で生産構造が急速に変化していった。この40年一貫しているのは低価格化による消費の拡大と経営の大規模化、輸入の増大だ。昨今の健康志向も含めて、低価格に支えられた需要が幻の需要であることは間違いがない。しかし日本の畜産は何に支えられて産業として継続しうるのか。

「カナダの農家のみんなも、悩んでいるし、がんばっているよ」

 こうした可能性をについて、飼料を通して、海外との連携、ネットワーク、仲間作りの中で模索する姿が向山さんの一面でもあるように思う。

●地域に還る畜産

 そして向山さんのもうひとつのオルタナティブが、飼料の国内自給、域内連携の可能性の模索だ。向山さんの目指す飼料の域内自給は、まったく新しい技術になってくる。それはまず高品質の生産物を安定して生産しつつ、分業化した食品産業全体をネットワークする。そして最終的には生産物に高い機能性を見出していく。基本形はもう見えているという。

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 これは緻密な作業だ。海外からの飼料輸入とは違い、同じ日本語を話せる同士、同じ社会状況を共有している同士、どのような価値を飼料の取り組みの中で生み出すかについて、取り組みの結果として生まれる鶏の健康や、消費者に届くだろう卵のおいしさ、栄養面まで、話し合いを重ねながら問題を共有していく。要は、日本人同士でどれだけいい事ができるかを、向山さんがプロジェクトリーダーになってネットワークして、進めていく取り組みなのだ。

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 プロジェクトに関わっているのは食品メーカーの方々、大学の研究室など。現在向山さんが入手している菜種油粕、味噌、オキアミ粕、米ぬか、おからなどの飼料原料のすべては域内の食品メーカーから産出され、履歴が管理されているが食品残渣と呼ばれる、いわば廃棄物。これらを鶏の健康衛生面、求められる代謝スピードから、乳酸菌(腸内pHを安定化させる)と納豆菌(サルモネラ、コクシジウム対策)などにより積極的に発酵させ、最終的にはアミノ酸バランスを調整した上で飼料とする。

 ボイラーつきの混合装置を発酵槽として、発酵時のみ加温。嫌気と好気の異なる条件をコントロールしつつ、4つの槽を経て完成させる。ここで発生する暖かい空気は、隣室で別途進めているクロレラの培養室に送られ、これもBMW技術による活性水で培養、飼料にタンパク源、色素源として添加される。

 この一連のシステムが現在、沢を隔てた鶏舎の反対側に設置されていて、原料供給、細かい耐用が確認できた後は、しっかりと農場全体の系に組み込まれ、少しずつ現在の輸入飼料に取って代わる予定だ。

 畜産が、新しい地域との結びつきを、必然として生み出すのかもしれない。

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 物質循環の大きな流れは土でも飼料でも、域内のネットワークで、人が生み出す。目に見えない部分では、森の常在菌の緩やかな浄化力を土と水に(広範に)対応させる。飼料の発酵には積極的に菌種を選定し(限定し)対応させる。生命体は物質循環において唯一、秩序を生む流れだというが、ここでは人と微生物の秩序形成の総合力が、水を汚さない、クリアでクリーンなデザインに結ばれていると言える。
 こうした一連の取り組みは、かつてアメリカ西海岸で志向された適正技術の流れや"豊かさを2倍に、資源消費を半分に"を標榜した『ファクター4』(E・ロビンスほか著・省エネルギーセンター刊)をほうふつとさせた。一貫しているのは高度な技術による自然との共存。そしてその景観は"草の屋根"の建築などで知られるドイツの建築家、フンデルトワッサーの環境デザインだ。
(周)


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