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【レポート】

2010-08-09

食の学校セミナー 参加報告

2010年7月13日(火)、銀座の中央会館で開催された食の学校の定例セミナーに参加してきました。Radixの会 研修生の高橋です。
セミナーのテーマは漁業問題。自分も魚は大好きです。
魚が少なくなっているとは時折聞くことはありますが、それを実感したことは一度もありません。つい最近のクロマグロ漁獲規制についても海外からの不当な圧力に屈しなかった日本という風に見ていましたが、それはどうも認識が違っていたようです。ここでは、勝川先生のセミナーより特に印象深かったお話をご紹介したいと思います。


食の学校セミナー

講師 勝川俊雄さんIMGP3526
(三重大学生物資源学部 准教授)
<プロフィール>
昭和47年、東京都出身。東京大学理科Ⅰ類に入学するが「21世紀は食糧の時代になる」と確信し農学部に転部。東京大学農学部水産学科卒業後、東京大学海洋研究所の修士課程に進学し水産資源管理の研究を始める。カナダのブリティッシュコロンビア大学に留学後、東京大学海洋研究所に職を得る。専門は、水産資源学。不確実なデータをもとに、乱獲を回避するための管理理論を数理モデルを使って研究して高い評価を得る。世界中の漁業の現場を周り、各国の資源管理を研究し、資源管理によって、日本の漁業を持続的な産業に再生するための社会活動を行っている。世界中の漁業の現場を周り、各国の資源管理に精通している。国内きっての漁業改革派の論客。日本水産学会論文賞、日本水産学会奨励賞を受賞。

<著書>
「魚のいない海」(NTT出版 監訳)、「海の生物資源」(共著)、「レジームシフト」(共著)
など



魚は、これから、食べられなくなる?
-消費者が知らない魚と漁業の話-

IMGP3508 IMGP3515
1・日本の漁業の現状

日本人の魚離れが進んでいると最近耳にします。一方、大西洋クロマグロ規制が話題となったように、海外では水産資源の減少が問題視されており、日本人は魚を食べすぎだとも言われているのです。実際のところ、日本の漁業はどうなっているのでしょうか。
日本人の一人当たりの水産物消費量は2000年頃に70キロほどになったのをピークに下がってきています。かつて、国内の漁獲量は消費量よりも多かったものの、それは70年代の話。そこをピークに漁獲量は、して減少を続けています。減ってしまった国産魚の分は輸入品で補われてきました。国産魚が無ければ輸入すればよいという考えで、私たちの食卓は満たされてきたのです。近年、日本での魚の消費量と輸入量は相関しており、魚を沢山輸入できれば消費量も増える傾向にあります。魚離れで消費者が食べないのではなく、国内の漁獲量も輸入量も減っており、そもそも出回る魚の量が減っているのです。

それでは、食卓に上ることになる国産天然魚、国産養殖魚、輸入魚の状況を見てみましょう。

A・天然魚
日本の漁獲量が落ちてしまった理由は、200海里規制によって遠洋漁船が撤退してしまったこと、そして東シナ海や日本近海で長い間乱獲を続けてしまったことです。日本周辺の魚は量も質もかなり低いものになっています。

B・養殖魚
日本の養殖生産は漁業生産全体の4分の1ぐらいありますが、大部分は貝と海草です。魚の生産量は少なく、ブリとマダイの2種が生産量の9割を占めています。さらに養殖魚の餌である魚粉の自給率は27%。輸入したくてもEUと中国が奪い合っていて入手するのもなかなか難しいのです。

C・輸入魚
和食ブームなどの影響で、世界中で魚が食べられるようになり、魚の輸入単価が上がっています。輸入量は海外に買い負け、年々減ってきています。中でも高級魚の輸入量はここ5年間で半分になってしまいました。

このように、いずれも厳しい状態で、このままでは魚を食べたくても食べられなくなるかもしれません。では次に日本人はどのくらい魚を食べているのか見てみましょう。


2・消費者を取り巻く環境
日本人1人当たりの魚の年間消費量は大体60キロぐらいです。しかし明治時代の消費量は年間10キロに満たなかったという統計もあります。魚を食べていたのは主に沿岸地域の漁村の人たちでした。それがここまで消費量が伸びたのは、冷蔵庫の普及や、国策によってタンパク質を魚から摂るという方針が取られたためです。日本人が魚を食べるようになったのは戦後の話なのです。

世界の一人当たり水産物消費量を見ると、日本はOECDでは、アイスランドに次ぐ第2位になっています。人口100万人以上の先進国の中では1位です。しかし、日本の水産物自給率は60%程度に過ぎません。これでは好き勝手に食べ続けていいわけがありません。これからも魚を食べていきたいと思うなら、持続性をもっと考えていかなくてはなりません。
お金があるから他国から輸入すればよいとか、魚が乱獲されても値段が下がっていいじゃないかとか思うかもしれませんが、そのツケは途上国や次の世代にいくのです。消費者にも持続性について考える義務があるのです。

そうは言っても消費者には乱獲された魚とそうでない魚の区別はつきません。そこでそれを見えるようにするために作られたのがエコラベルです。中でもメジャーなのがMSCエコラベルというもので、持続的な漁業で漁獲された魚だけに付けられるものです。世界ではMSCエコラベルの製品は普及しつつあり、MSC認証の商品しか売らないという小売店も増えてきています。日本での認知度は非常に低いのですが、なんらかの対策を取らなければ日本の漁業は衰退する一方です。消費者には漁業の実情を正しく認識してもらい、日本の漁業は今のままではまずいと問題提起して行かなくてはなりません。


3・日本漁業の問題点
日本の漁業システムは、組合などの組織に割り当てられた漁場があり、自分の漁場内での漁獲は、各組合の裁量に任されています。そこで漁獲枠の範囲で漁をするというもの。魚は当然移動するので、自分の漁場に魚がいるうちにすべてを獲ろうとするのは自然な成り行きでした。しかし、技術・漁法の進歩によって、今や漁獲能力は自然の生産力を完全に上回ってしまった。それによってさらに早い者勝ちの競争になり、魚は育たず、小さな魚しか獲れなくなってきています。
大きくなるのを待った方がよいのは皆わかっているものの、待っていれば誰かに獲られてしまう。だから小さくてもいいから獲りにいくしか手段の無い状態に日本の漁業者は追い込まれているのです。このままでは本当に魚がいなくなるかもしれません。
世界でも水産資源の枯渇は問題になっており、2048年に漁業は崩壊するという説を唱える人もいます。しかし、水産資源の管理をしっかりしていれば崩壊することはありません。資源管理をしている国の漁業は回復に向かっているし、それによって生態系のインパクトを修復できるのです。


4・日本と欧州の漁業比較
世界の漁業は二極分化が進んでいて、ノルウェー・アイスランドなどの国が順調に漁業生産を伸ばす一方、日本・ポルトガルといった国は漁業が産業として崩壊しています。この両者の違いが何かといえば政策の違いであり、資源管理をしている国、していない国で別れているのです。資源管理をしている国では漁業の構造が変わって生産的になるのです。
水産物輸出国であるノルウェーを見てみると、毎年輸出金額ベースで増加していて、13年で倍ほどになっています。ノルウェーも昔は日本と同じような状態で、魚を乱獲して資源を減らしていましたが、ほぼ禁漁猟にしました。それによって経済は大混乱しましたが、資源の回復には成功しました。きちんと卵を産ませる、生息地を守るといったことをすれば魚は戻ってきます。また、ノルウェーは再度乱獲には走らず、漁獲量を一定に保って高い品質を維持し、高値で売る選択をしました。これによって生産量は一定でも輸出金額を上げることに成功したのです。

また、ノルウェー人に聞くと補助金はよくないと言います。補助金によって非生産的なセクターが温存され、そこが利益を出さずに魚を消費してしまう。その結果、漁業産業が傾くことになってしまうのです。
また、欧州にはノルウェーだけでなく、ヨーロッパ全体で資源管理をしようという姿勢があります。日本との違いを見てみましょう。

<欧州の資源管理システム>
1.科学者が勧告した漁獲枠を遵守
     -生物の持続性のみを考えて、きわめて保守的
2.漁獲枠を国ごとに配分
     -国際的な枠組みで早獲り抑制
     -国内での漁獲枠配分、漁具規制、販売については各国の裁量による
3.不正漁獲には国として厳しいペナルティーが与えられる

<日本の資源管理システム>
1.漁獲枠があるのは7種だけ
2.持続性を無視した過剰な漁獲枠
    
-科学を無視して役人が漁獲枠を決める
3.漁獲枠を超過して獲っても罰則はなし

欧州の厳密な管理システムと比較すると、日本の資源管理はとても管理と呼べる内容ではありません。

今の日本の漁業はひどい悪循環に陥っています。
漁獲量を増やせば資源が減少し、それによって収益は悪化。そして収益を増やすためにもっと漁獲を増やそうとする。必然的に漁業者はとにかく生き残ろうと必死の努力をしますが、それは結果として自分の首を絞めることであり、体力が尽きた経営体から潰れていくことになります。ここで国が補助金で延命助けようとするのもよくありません。必要なのは公的資金で乱獲をのサポートすることではなく、きちんと質が高い魚を安定的に取れる漁獲制度を作ることなのです。

5・クロマグロの話
つい先日、ワシントン条約で激減を続ける大西洋クロマグロの取引規制をしようという動きがありました。ワシントン条約というのは絶滅の恐れのある野生生物の国際取引を規制するもので、クロマグロはすべての取引を禁止する方向で動いていましたが、日本はそれに対して「留保」を表明し、一切従わない姿勢を示しました。日本のメディアは、これは不条理な規制であり「留保」はやむを得ないことだと報道しました。しかし本当にこれは欧米の資源囲い込みで、規制が理不尽かというと、私はそうは思いません。
もはやクロマグロが枯渇絶滅寸前なのは確かなであり、もはや獲り尽くすか禁漁するしかないところまで来ていると思います。その部分が日本ではあまり報道されて来ませんでした。

もうひとつの問題としては、資源管理をしてきたICCATという国際機関がありますが、ここの機関の資源管理能力が非常に低いことが挙げられます。ICCATは今まで資源に対して有効的な措置は何一つとってこなかったといってもいい。科学者が出したアセスメントを無視した漁獲枠を設定し、現実にはそれすら守られていなかったのです。

そのような背景があったから、ワシントン条約で取引を禁止しようということになったのです。2009年にはヨーロッパウナギがワシントン条約で取引を規制されましたが、日本はヨーロッパウナギの世界一の消費国でした。日本人もヨーロッパウナギの減少に大きく荷担していたのです。こういう歴史を繰り返してはなりません。だからこそ、大西洋クロマグロに対する今回の日本の姿勢は非常に残念なものでした。世界のひんしゅくを買いながらも絶滅の恐れのある資源を食べ続けるのが食文化だ、やむをえない選択だと言えるのでしょうか。

実は大西洋クロマグロを守りながら、日本人が今までと同様にマグロを食べ続ける方法はあります。難しいことではなく、日本の沿岸で獲れるマグロをしっかり管理していれば、日本人が消費している量は十分にまかなえるという話です。
日本海の大型巻き網拠点である境港では2004年からマグロの漁獲量が上昇していました。これはアジやサバをほぼ獲り尽したので、今度はマグロを獲りはじめた。結果、2009年にはマグロの親も獲りつくし、漁獲量、漁獲重量ともに激減してしまいました。問題はそれだけでなく、未成魚も獲られていることです。太平洋クロマグロの9割以上は1才までにカツオ程度のサイズで漁獲されています。この1歳以下のマグロ(ヨコワ)を7歳ぐらいまで待ってから漁獲すれば、漁獲重量は日本のマグロの流通量である4万トンを超えます。当然金額で見ても大幅に利益が上がる。そう考えると、今の漁業は非常に効率の悪いものなのです。
未成魚の乱獲をやめれば日本人が食べる分のクロマグロはまかなえる。しかもこの大きさになれば卵も産んでいる。きちんとした資源管理をしていれば、わざわざ海外の資源に頼る必要もないのです。

つまり私達がすべきことは、
1・漁獲枠をしっかり設定する。
2・大型船と組合に漁獲枠を配分する。
3・産卵期に産卵場でのマグロ漁を禁止にする。

これをやっていけば資源は復活する余地はあると思います。でも、現状の操業を続けたら、日本の漁業が成り立たなくなるのは時間の問題でしょう。


6・これからの「漁業」の話をしよう

このクロマグロの話を農林水産省副大臣にお話してみました。すると一ヵ月後、検討するという返事が来ました。今まで政治が動かなかったのは、政策設計を役所に任せていたからでしょう。現場の情報を集めてそれを分析し、政策設計をして提言する。ここまでを一連の仕事として自らが行ったから、政治が動いたのだと思います。
とはいえ、情報収集、分析、政策設計、提言、情報公開を自力で行うには大変なお金と手間がかかります。だからこそ、これらを自力で行なえる第三者研究機関が必要だと考えています。

世界の中で漁業がうまくいっている国は全て保護団体が強い、つまり保護団体が口うるさいから国としても下手なことはできないのです。こうして海外の保護団体の働きかけがその国の政策設計のレベルを押し上げているのに対し、日本には強い提言を行う団体がないので、業界の意見だけで政策が決められてしまう。海外では消費者がそういった専門家を支援しているからこそ、国の予算や業界のしがらみにとらわれない専門家が自由に提言をできるのです。

日本でもそういった政策提言のできる専門組織を民間で作ることが必要です。そのためには消費者の意識改革が必要です。乱獲という問題が消費者に認知されていない中では消費者からのサポートには期待できません。私は第一の課題は消費者の教育だと考えています。消費者に今の日本、世界の漁業は大変だということ、魚を消費するということは持続性に対して責任が生じるということ、未来のための投資も必要になるということを様々な場面で発言したり、雑誌で発表したりしています。この問題をどのようにして消費者に伝えていくか、そして自分たちの問題として取り組んでもらうか、今はそれが大切です。日本の漁業を変えるためには、消費者を変える必要があるでしょう。


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